マンションの管理の適正化の推進に関する法律及びマンションの建替え等の円滑化に関する法律の一部を改正する法律が令和2(2020)年6月16日成立、6月24日公布した。
成立背景はマンションの老朽化や管理不全の高経年マンションが急増する見込みなので、老朽化を抑制し、周辺への危害等を防止するための維持管理の適正化の推進、維持不能の場合の不動産再生に向けた取り組み強化とのこと。
区分所有マンションの仕組みが壊れてきていることに間違いは無い。建物は古くなっていくし、合わせて所有居住する人も高齢化して来ている。そのような現状分析や取り組みの方向には賛同したい。
さて、その改正の中身であるが、適正化法の改正の部分は、「国又は地方自治体が分譲マンション管理組合に対し調査、指導・助言及び勧告」の権限を持つとのことである。管理不全のマンションの管理を適正にしなさいといいたいのであろう。
又、管理が出来ているマンション管理組合については、「管理計画認定制度」なる新たな仕組みで付加価値を付けると、管理の適正化が進むと企んでいる。
一方、管理不全から建物の利用が見込めないマンション管理組合については、取壊しのハードルを下げて、そのまま放置されないようにしたいと思っているのであろう。
ここで少し前のことを思い出してもらおう。平成28(2016)年の標準管理規約改正で、役員のなり手不足等の対応の手段として、外部(区分所有者以外)の専門家も理事長や理事、監事に就任出来る基準を作った。この時も、こんな対策外道でなんの効果も無いと思った。それから何年も経過したが、残念ながら取り組み事例や効果についての情報を聞いたことがない。
又、平成25(2013)年に改正宅地建物取引業法において「インスペクション」なる制度をつくり、建物調査による付加価値付けの仕組みで中古不動産の流通を活性化しようと試みたようだ。分譲マンションにも適用されるが、分譲マンション中古物件の売買に自主的にお金をかけてまで進んで評価を受けようと思うことがあり得るのかと疑問を持つ。それどころか、複雑な仕組や手続が増えて負担が多くなっただけ迷惑をかけている。
これらとは別に令和4年(2022)年4月にマンション管理業協会(管理会社の業界団体)が「マンション管理適正評価制度」を実施する予定ですが、中身はマンション管理状態を評価して、保険料率などのメリットを受けられるしくみらしい。ほぼ同時に行われる「管理計画認定制度」と重複する可能性は大であろう。
さて、今回の改正に戻ってみよう。
中身は国や地方公共団体なる御上が私的財産の管理に口を出す権限を拡大させて、管理の適正化を図ろうとするものらしい。出来ていないかどうかは権限を使って、管理組合や管理会社に管理状態を報告させるように協力させ、管理不全のマンションには助言・指導をし、改善されない場合は勧告をするようだ。
管理の適正なマンションには「管理計画認定制度」にて申請により評価を与え、流通の促進を図る。管理不全のマンションには、場合により地方住宅供給公社に管理や工事をさせるようだ。
管理不全で建物の使用が出来ないマンションには、建替えや敷地売却手続きのハードルを下げて、建物の撤去を進めるとの企みなのだろう。
これらのことは、いかにも、当事者ではない外部の人間が考えそうな的外れな考えではないだろうか。検討会のメンバーをみても、役人や学者、弁護士、関連業界団体の方々ばかりである。管理組合を構成する区分所有者身分の方の意見はどこに反映されているのであろう。
当事者抜きで話し合っていることは絵に描いたもちのようにしか見えない。新たな「管理計画認定制度」においては関連事務を外部委託出来るようにして、天下り先や関連業界団体を潤そうとしているとしか思えない。地方住宅供給公社にも新たな仕事ができるように図られている。役人は新たな仕事を増やしたがっているのだろう。
ここで区分所有の仕組みに戻って考えてみよう。基本、住宅という建物は単独で所有管理し、利用使用もする。マンションという集合住宅は複数の住戸が存在し、共用する部分が存在する。本来は一物件については一所有権となるので、一所有者が全部を所有し管理し、それを複数の利用者に住戸単位で貸す形となる。いわゆる賃貸マンションである。建物躯体や共用部分の維持管理は、その一所有者が管理することになる。本来の姿の賃貸マンションを考えると管理の義務を怠ると、居住の使用に差し障ることになり、手を抜くと客付けが出来ず、収益が上がらなくなり、そのうち損失が発生することとなる。所有居住している一戸建ての場合は、管理がおろそかになっても不便なまま所有者が使用することとなる。高齢者になれば、所有する建物を引き続き使い続けてくれる人がいない場合などには、手を入れることもなく、不便なまま使い続けることを選ぶことも多い。当然、使用するための管理の負担も、その見返りの使用利益も同一者となる。
一方、区分所有という仕組みは、一棟建て内の複数の住戸に個別に所有権を与え、敷地や建物躯体、共用部分に関しては、所有者全員で管理組合という組織を構成し、維持管理していくという仕組みを作った。これは維持管理という義務負担部分を共同で行って、利用使用という部分は住戸別に利益を受けるしくみである。
歴史的に見てマイホームを持つことに夢を見ていた時代には、この制度は大きな成果を上げたと思う。利便性の高い場所に住宅を所有するには高額な費用負担が必要となり、多くの人々が望んでも持ち家を所有することは出来なかった。しかし、区分所有という仕組みは、土地を立体的に活用し、かつ敷地や建物躯体、共用部分を共同で利用管理する方法で、割安に住宅を取得することが出来るようになった。それゆえこのように過剰なほど普及してきたのであろう。
しかし、そこには時間差で現れる大きな問題が隠されている。維持管理の問題である。新築マンションを購入してから十数年は、維持管理については特に問題なく利用使用出来るからである。又、その時代の人々は昔からの隣保共助の精神が残っていて、共同で維持管理するという場合に少なからず、義務を全うしようとする人々が多く存在した。十数年過ぎて第1回目の大規模工事が行われ、築30年過ぎると2回目の大規模工事とそれに加えて設備関係の更新工事が加わってくる。現在の新築マンションでも30年の長期修繕計画は作成されていて、それに基づいて積立金額が決められているので、計画通りなら資金ショートもしない。しかし、その後設備関係の更新時期が加わる。通常の大規模工事も回を重ねると、工事範囲内容が増え費用負担も増える。その上設備更新費用が加わるので、当然、積立金の値上げにつながる。それらは当初から予想されるものだが。
わかっていたかもしれないが、所有者にその意識は少なく、必要に迫られて、それらの工事に係る計画および高額な工事費用の工面、それらに対する区分所有者の方々の意見の統一という高度な作業を所有者らが行わなければならない。30年も過ぎると大方の所有者も入れ替わっている。共同住宅という名前も見受けられなくなりマンションという言葉に代わった。マンションというとコンクリートの建物で、プライバシーが守られていて、建物は確りしているというイメージしかない。賃貸マンションと勘違いしている方も多く、管理組合というのは所有者が雇っている管理会社と思われている方々も相当多いと思われる。なにもかも曖昧なのである。
今の所有者は、維持管理は管理会社もあるのだから、やってくれる人に任せて、管理費積立金等の費用さえきちっと払っておけば、賃貸マンションと変わらず何も負担はないと思っておられる方が大半だろう。その上、売りたいときにはお金になるからと。年を経て、各所有者が高齢になって維持管理義務が果たせなくなっただけではなく、元々そのような義務があると思っていない方が所有者となってきているのがほとんどである。それは共用部分のみではなく専有部分についても、全ての維持管理を管理会社がするものだと思っている。そのために管理費積立金等を支払っているのだと。
管理組合の補助業務をするという管理会社からすれば、新築から2回目の大規模工事までがトラブルも少なく負担の割に収益が上げられる期間だろう。大規模2回目前までは積立金額の値上げ検討もしなくてもどうにか、まかなえる。2回目の大規模から工事範囲が広がり、且つ設備関係の更新時期にも入ってくるので、費用負担もぐんと増える。1度目の大規模工事でたぶん積立金は使い果たしているので、積立金の値上げ、それも相当額の値上げが必要となろう。又それだけ年月が経過すれば、修繕だけではなく、グレードアップの改良工事を望むこともあろう。その段になると、当初からの所有者が少なくなり、収益物件としての所有する方なども加わり、使用方法や、財力などの違いにより、意見の統一が困難になってきている。その上、管理費等の滞納が加わってくるとようになると、当然、収益の見込めないマンションについては管理会社も離れていくことになる。そうなると管理不全に陥るのはそう遠くはない。
結局は所有者の当事者意識である。所有するということは、維持管理が必要であると。
行政が提案してくる対策は、対策と言えるものではない。本来所有者がしなければならいことを、出来なければその方面の専門家・専門業者を使えと言っているだけ。専門家・専門業者がいなければ、その専門家制度を行政でつくるからと言っているだけ。
それも直接、個々の所有者に訴えるのではなく、管理組合という当事者意識の少ない組織や、それに携わっている管理会社を通じて遠回しに適正化を図ろうとしているだけなので、当事者である所有者にはまるで伝わっていない。
適正化を求めるなら、当事者である所有者に直接に、維持管理が出来ないなら費用を払って、専門家を雇えと。
マンションを平穏無事に住まいとして使用出来る維持管理の適正化は、所有者が自らするのでなければ、費用を払って専門家・専門業者を雇ってしていかなければならない。管理不全の対策は費用負担を増やせということなのである。行政の政策は全く本丸に届かない。区分所有者にとっても、訳の分からない誰も理解できない法律がドンドン増えても、さらに興味をなくすだけ。行政の自己満足、ムダな労力、税金の無駄遣いでしかない。
考えるに元々、区分所有というシステムには無理がある。収益を考えた1棟建てのマンションを考えるとき、賃借人が平穏無事に生活出来る建物を、最小のコストで維持管理したいと思うだろう。そのためには出来ることは自らがして、専門業者を使うにもコストを考え、想定する維持管理方法を考えてマンションを運営することだろう。その維持管理の負担は区分所有マンションでも同じだけ有るはずである。
それでは、その負担はどこに消えたのだろう。それは、前述したように新築からの20数年は元々負担が少ないし、請け負っている管理会社も所有者が無関心なほど思い通りに収益が上げられるので、任せておいて下さいということになっているだけなのである。後は、収益物件ではないので利益を上げる必要がない部分は負担が少ないということだろうが、何もかも業者任せになれば自ずとコスト高になるのは確実だ。しかしその負担について御上はなぜか口にしない。
話しは変わるが、先頃、森友学園公文書改ざん問題で真相解明のため起こした損害賠償請求訴訟に、国側が突然請求を承認した。1億円を支払うらしい。また、コロナ対策で用意されたアベノマスクの過剰在庫の放置が税金の無駄遣いと話題になっている。何故か、管理組合の役員会を思い浮かべてしまう。貧乏くじを引いたおばちゃんたちが、「私何もわからないから、お任せします。」といって、何もかも管理会社や業者のいいなりになってしまっているのは無理もないこと。管理費や積立金は国の税金と同じ事、資金の運用について当事者意識は国も組合理事も多くは感じていない。それは共同という責任の所在が不明な組織構成となっているからだろう。それらの責任を確り取らなければいけない仕組だったら、役人の不正や放置という怠慢は減るのではないか。又、分譲マンションの購入より賃貸マンションを選ぶことになるだろう。
ここにとっておきの提案がある。分譲マンション管理組合の仕組を維持していくには、費用負担としての管理費修繕積立金の支払は当然だが、組合運営にかかる役員活動については、在る一定の知識を以て(管理業務主任やマンション管理士レベル)所有者自らが役員になるか、若しくは費用を支払ってそれらの専門家を代理役員として個人が費用を払って雇って、組合活動を維持していくしかないのでは。